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【説明書/全訳】プリペアド・ピアノのための《ソナタとインターリュード》


なぜ「小型の」スタインウェイが必要となったのかの典拠となっているジョン・ケージによる報告文。この説明書の中で、スタインウェイのサイズ選択について、ソフトペダル(シフトペダル)とハンマーの微調整についても触れられており、ニューヨーク・パブリック・ライブラリー、及び、ペータース社から許諾を得てその全文を邦訳しました。


General Directions for Preparing a Piano for ‘Sonatas and Interludes’

《ソナタとインターリュード》の準備における概略的説明書

(ジョン・ケージ)

 

1. 自由にできる時間を2時間から8時間、確保してください。そして、これは忍耐をもって諸々の障害を克服する作業なのだと心に留めてください。

 

2. 次のものを用意して下さい。挟み込む物を分類して、特定の指示を書いておけるように、45個の封筒。6インチと18インチの2つの定規。調律師、ネジ回し(マイナスドライバー)。調律されたスタインウェイのグランドピアノ。できればM、次に好ましいのはAかB、他のモデルで可能なのはLかOです。

 

3. B''の音の3番目の弦の長さを測って下さい(1つの音に対して3本の弦が張られています。それぞれの弦に、鍵盤側から見て、左から右へ1,2,3と番号が振られています)。ダンパーからブリッジまでの距離を測ります。そのB''の弦の長さは4と7/16インチのはずです。もしそうでない楽器だったらば、低いGreat または Large Dの方向に対しては、単純に長さを引くか、または、足して調整してください。(高い)E flat'''の方向へはそうしないでください。

 

4. 指定された場所にオブジェクトを挿入します。その位置は、挟み込む物のいちばん手前、端の部分を示しています。作業は低い音域から始めて、高い方へと進めて下さい。

 

5. ソフトペダルが正しく動いているか確認して下さい。ソフトペダルのアクションは、ハンマーが3本全ての弦を叩くのではなく、2番目と3番目の弦だけを叩くように、ハンマーが右へシフトすることがその目的です。この音色の変更は、F sharp'', C, C sharp, E flat, E, そしてF sharp'''より上の全てのキーで確認することが出来ます。

 

 ソフトペダルを使っても音色の変更が行われない音をメモして、リストにしてください。

 

 そのリストを調律師に渡して、ソフトペダルが適切に機能するようハンマーを調整してもらってください。

 

 アクションを取り外して、ハンマーを調整して、また戻す。調律師がいなければ、必要に応じて何度もこの作業を繰り返して下さい。

 

6. 数曲演奏してみて、その前後関係に応じて、そのイントネーションをよく調整してください。特にこれに役立つのは、ソナタ第7番、第8番とインターリュード第1番です。適切にプリペアされたピアノで曲を聞いた記憶がないと、調整することは難しいでしょう。適切なプリパレーションは、作曲家によって(1949年3月)、マロ・アジェミアン、ルー・ハリソン、ジャック・ハイデルベルグによってなされました。皆、ニューヨーク在住です。

 

 「ビリビリした音(Buzzes)」は取り除いて下さい。距離は変更せずに、ネジを注意深く上下させて(回して)位置を整えることで取り除くことができます。

 

 ナットが隣の音の弦に触れていないか確認してください。

 

SONATAS AND INTERLUDES by John Cage.

Copyright ©1960 by Henmar Press Incorporated. All rights reserved. Used by kind permission of C.F. Peters Corporation.


(補足:横山)

ケージの説明に付け加えなければならないのは、「ダンパーペダル」についてです。プリパレーションを行う際、必ずダンパーを開放させて行わなくてはいけません。なぜなら、ピアノの中音域のダンパーは下の写真のような「W字」の形状となっており、ボルト等を挟み込む際に使用するマイナスドライバー等で捻って弦の間を広げたときに、ダンパーが下がったままだと、W字のフェルトが裂けてしまう恐れがあります。これはピアノにとって最悪のダメージであり、完全には修復不可能だそうです。とても危険なことなので、中音域のプリパレーションでは必ずダンパーを上げるようにして下さい。

ダンパーを開放させっぱなし(右ペダルを踏みっぱなし)にして作業を行うことが大切です。木片や100円ライター、調律用のウェッジをダンパーペダルの後ろに差し込んでおくことで可能です。

 

ケージの言うBuzzは、ネジの挟まり具合がゆるいために、ネジがビリビリ振動して生じる雑音を指しています。臆することなくピタッと止まるまで挿入し、また、ある程度太めのものを使うほうが安全ですし良い音がします。ゆるく止めてしまうと演奏中にネジが前後にズレてしまい、ハンマーに干渉する危険性が高まります。このケージの説明書から、高音部で多く使われるネジの音は決してノイズを意図していないことがわかります。グロッケンシュピールのようなキラキラとした音色を目指しているのでしょう。
同様に、ボルトについても注意すべきなのは、その「太さ」です。細すぎるボルトは強く弾いた時、簡単に外れて飛び出します。また、逆に響板の方へ下がってしまうことも起こります。後者、長いボルトによる響板へのダメージは取り返しのつかないことになります。《ソナタとインターリュード》の中で力強く弾くところは限られていて、ほとんどの曲が優しく静かなものです。しかしボルトの太さの選択は慎重に行いたいところです。少し太めのボルトの方がぴったり止まって安心ですし、良い音が得られやすいように思います。
しかし、以上のことは張られている弦の中央付近にだけ適用されます。張られた弦の両端を不用意に広げてしまうことは断線のリスクがあり、避けなければなりません。ネジとボルトに関しては「ズレる、外れる」ということが起こらないよう準備することが最優先だと思います。
ネジとボルトは、ノイズを出すことが目的ではなく、弦と合体、共同して音色を魅力的にするものです。「Buzzを取り除いてください」という指示は、このような事を求めていると考えられます。
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